Concept
決して本物を超えることはない
エルファイブ・デッドコピーの美学
時はオイルショックから少し後の1976年、当時の日本を代表する楽器メーカー・グレコから、フルアコースティック・エルファイブのデッドコピーモデルが誕生した。
当時の男子大卒初任給が9万円そこそこの時代に、このLシリーズの価格は10~20万円の設定であった。
良質の材をふんだんに使用し、特にL200は職人の手作業でスプルース単板を削り出してのアーチドトップを採用、ポジションマーク等に本白蝶貝を象嵌するなど、まさに手工品として世に送り出されたのだ。
まだまだ意匠権、著作権など曖昧なこの時代…。レスポールやストラトキャスターなど人気機種にとどまらず、フルアコースティック高級モデルのエルファイブのコピー品まで手掛け出したグレコの自由奔放な勢いは恐らく誰もが認めていたところであろう。
「リイシュー」とは同メーカーでの再発売をいい、「レプリカ」とは過去の製品を、材料のみ現代品を使って(当時の物は入手不可能な為)正確に再現したものをいう。
また、「模倣品」とは他のものをまねること、似せることをいい、「コピー品」とは意図して何かに似せた商品=デッドコピー(Dead Copy)となる。合法のものと違法のものがあり、他社の人気商品に、意匠(外観)、商標などを似せ、ブランドの商標を似せる場合は偽ブランド商品とも呼ぶ。
まさしく後者のパターンが花盛りだった、当時の日本のギターメーカー事情…。もはや当たり前のごとく、各メーカーから多くのデッドコピーモデルが排出された時代であったことは周知の事実。
けれど、このグレコのLシリーズの場合は少々勝手が違う。
当時の音楽シーンはフュージョンやクロスオーバーが全盛期であったが、市場での需要がさほど高くないであろうフルアコースティックギターを、しかもハイスペック・高コストで商品化したのだ。
それをニーズとする富裕層はごく一握りと容易に推測できるが、グレコは果たして本気でそこをターゲットとしていたのだろうか。
または全方位に及ぶ品揃え展開とすることで、トップメーカーとして業界に君臨するための企業戦略としていたのかもしれない…。
いずれにせよ、Lシリーズはいくら良質な材を用い、手間暇かけた高級タイプであろうが、結局はデッドコピー品…。「オリジナル」を決して超えることはできない、悲しい運命にあったのだ。
追い打ちをかけるように、コピー規制が厳しくなった1978年頃を境にその存在はカタログから姿を消してしまう。
当時の高級デッドコピー品を市場に投入するメーカー側の意気込みと、それを受け入れる側の市場での需要性や規制による“ギャップ”が、今となっては “リリシズム” となって伝わってくる。
「夏草や兵どもが夢の跡」…そう、Lシリーズの存在は悲しい美学だったのかもしれない。